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衣食足りて礼節を知る

8月5日に、強引に成犬を飼うことにした。
避妊している雌犬、7歳。

父は、すぐさま解き放て!と怒号し、私が犬にしがみついていると、「その犬と出て行け!」と、裸足で追いだした。
靴だけは履かせて!と靴だけ履かせてもらい、犬を車に乗せて私は役場に行き、犬の登録をし、「当座の荷物を取りに行かせてほしい」と家に電話したら、父は

「その犬を連れて帰ってきなさい」

と言ってくれた。

そして、テオドア愛称てんちゃんは、わが家の一員になった。

外飼いで、ほとんど散歩にも行っていなかったようだ。

てんちゃんは、とにかく飢えていた。

食べ物にも、愛情にも。

かんちゃん(去勢していないオス犬、13歳)は、良く言えば優しくて、悪く言えば弱虫なので、てんちゃんに「どうぞどうぞ」といった感じで、遠慮しているようだった。

いけない。

これではいけない。

と思ったが、人間の都合を押し付けてはいけない。
彼らのペースでゆっくりと。

とりあえず、何をするにもかんちゃんを優先し、それをてんちゃんにわからせるようにした。

てんちゃんはかなり賢く、それはほどなく理解したようだった。

ただ、たまに理性が負けてしまうことがあり、同じものを近い距離で食べていると心が焦りに焦って、かんちゃんを襲うことがあった。
あの食べ物も、あたしのもの!と思ってしまったのだろう。

困ったなあ、と思いながらも、私は待った。
てんちゃんが、私達の愛情を信じてくれるのを。

そしたら、最近、かんちゃんに歩み寄るというか、敬うというか、望んでいた形が実現しつつある。

そのことを母と話していたら、母はこう言ったのです。

「衣食足りて礼節を知るってやつだね」

なるほど。

もう、あくせくしなくても、この人たちは公平に与えてくれるから、とわかってくれたのだろう。

ポエングで寝ているところを起こして、降ろして、そこにかんちゃんを寝かせても怒らない。
素直に、自分のベッドに行く。

ありがとう、てんちゃん。
わかってくれて。

今のところ、一番はかんちゃんだけど、きみのことも一生大切に愛するからね。